【長編】サバイバル・カヌー(あとがき)
2021年春にこの「サバイバル・カヌー」旅行記を書いて一旦、旅のHPに上げた。その後、1年が経ったので改めて文章を手直しして、2022年4月にnoteに改訂版をアップした。それで本編は完結したのだが、もう少し触れておきたい事があるので、あとがきとして何点か書き足しておきたい。
2022年4月に発生したウトロの観光船事故など水難事故に巻き込まれた方にとって役立つ記述もあると考えたため、旅行記の内容として相応しくないものの腎機能低下についても触れている。
(1)カヤックのプロに意見を伺った
今後の参考にするため、カヌー転覆とその後の対処に関していくつかのカヤック・ガイドさんに今回の川下りに関して意見を求めた。そのうち4名から貴重なコメントを戴いたので、その一部をご紹介する。
【註】特にネット公開する許可を得た上で意見を伺ったものではないため、ここではA社~D社と表記する。実際にはかなり丁寧な回答を頂戴しており、ここではあくまで回答の一部を抜粋したものです。また、文意を変えない範囲で受領したコメントから敬語を省略するなど簡潔な記載に修正しました。尚、お忙しい中で弊方の問合せに応じて頂いた関係各位の皆様に深く感謝致します。
論点①:日本や海外でカヤックやカヌーの半日ツアーに参加している程度だと、こうした個人ツアーにトライするのは無茶なのか?
A社: ガイドが同乗しているツアーであり、決して無茶ではなかったと思う。
B社: スキルや体力に合わせて催行するのが商業ツアーなので、トライすることが無茶だとは思わない。
C社: 日本国内のツアーと海外のツアーでは価値観や安全基準が全く別物だと考えた方がいい。また、参加するショップによっても催行基準が異なる。
D社: 通常は、ツアー会社が参加者の技量を把握して、ツアー受付の可否を判断するのが常識。
教訓: 無茶ではないが要注意。これまで海外旅行を重ねている知人からも「国内と海外では安全に対する認識が異なる」との意見を得た。それはこれまでもボンヤリと意識していた事であり、自分の身を守るには自分自身でもアクテフィビティの難易度や適合性を考えて参加する必要があるって事。それは身の危険を伴うアクティビテなので尤もであり、他人任せの判断にする事はできないのだ。
<NZコロマンデル半島ハーヘイのビーチにて(2017.12)>
論点②:もし川で艇が沈没した場合、自分やガイドの力では如何ともしがたい状況だった。水深2mで足は付かず、流れは緩いと思ってもいざ水に入ってみると流されるがまま。こうした状況でどう対処すると良かったか?
A社: 上陸できる安全な場所が無い場合には、流されていくしか方法がない。ライフジャケットを着ていることが絶対条件で、ディフェンシブボジションを取る。
B社: (参考になる動画を紹介いただく)
C社: ―
D社: パドリングは決して安全なアクティビティではないので、いざという時の対処方法や考え方はプログラムとして確立されている。そうしたプログラム受講が有用。
教訓: ある回答に「前を向いて流されていく」と書かれていた。これを読んだ時に私はゾッとした。と言うのも、私は転覆したカヌーの前方にいて、ずっと後ろ向きに流されていたためだ。ときどき瀬や岩にぶつからないか振返って川下をチェックしていたけど、基本的には反対を向いていた。余計な動きをする余裕がなかったのが最大の理由であり、もう1つの理由はニュージーランド人のガイドのガタイが良くて流される最中も常に後ろにいたためだった。勿論、川の中にも危険個所が潜んでいるのだろうけど、そこはもうクロックスがカバーしてくれるとしか考えようがなかった。
もし、いつかこうしたトラブルに巻き込まれる事があったら、安全なポジションを取る事だけは守ろう。ポジショニング次第で危険を回避する事ができれば、生存確率が高まるって事だ。一度身をもって経験した事はきっと忘れない。
(2)86kmの川下りは適切なルートだったのか
TBS-BSの番組に「アドベンチャー魂」がある。たまに見るけど、どうしても火曜日21時って時間帯は忘れがち。地上波でやっていたTBS「クレージー・ジャーニー」は怪しい方に尖った出演者が多かったので、個人的にアドベンチャーを志向しているこちらの出演者に親近感を感じる。しかもその道のプロが別の道のプロをフォローしながらチェレンジする姿が地味だけど無理に武勇伝を作る必要もなく、淡々とその姿を追っていけるのでいい。
ある日の放送で、ユーコン川を下ったカヤック冒険家とこの番組で以前にも冬の南八ヶ岳で大同心、小同心の辺りを果敢に攻めていた岩垂かれんが那珂川を太平洋まで1泊2日で60km下る企画にチャレンジしていた。
最後の瀬は私が北イタリア・リエンツァ川をシングル艇で乗り越えたものと比べたらまだまだマイルド。あの時はチリ人のガイドから「スマイル、スマイル」とアドバイスされたけど、もう必死で顔がこわばっていたのが自分でも分かった。と言うか、緩い流れを下った後その場に着いて初めて、ヘルメットを被ってスキューバスーツを着ていた理由が分かった。
私も10年以上前に那珂川でカヤックした事がある。と言うか、ボルネオ島で初めてカヤックに触ってからまだ間もない、3~4ケ所目での体験だった。具体的なエリアは覚えていないが、JR烏山駅でツアー会社の方と待合せをした。川下りを終えてから真岡駅まで送迎して頂いたので、那珂川の中流域になる。カヤッキングしていると右手に山肌が見えて、左手は概ね川原や洲が広がっていた。総じてのほほんと癒されるようなパドリングができた。瀬も乗り越えているけど、この番組のラストに登場した瀬と比べたらずっとマイルドなものだった。
番組では、ヤマのプロでも岩垂さんがカヤック初心者に近い様子だったのでちょっと心配。60kmってパドリングするにはそこそこ長い距離なのだ。しかもカヤックを漕ぐのに使うパドルが水を受ける面が狭いトラディショナル・パドルだった。私はこのタイプを使った事がないけど、いかにも木製なので重そう。しかも、パドルが水を掬って宙に浮いた時に、パドルの尖端から中央部に水が垂れてくる。通常、カヤック・ツアーで使うタイプならゴム製の水止めリングがあるので濡れにくいけど、ポトポト水滴が落ちてくる様子だった。スプレースカートでカヤックとヒトを固定するタイプの艇ではなかったため、漕いでいるうちに濡れてしまうのは何気にストレスになる。
TV映像からも午後になると明らかにモチベーション・ダウンしている様子が伺えた。カヤックって瀬を越えてしまえば単調な腕の回転運動を延々と繰り返すだけ、って錯覚に陥る事もある。それと、下半身をずっと固定しているので、腰痛になりやすい。結局、初日に15km漕いで、最終的に35km地点で切り上げていたので2日目は20km進んだって事だ。
さて、2泊3日で86kmの川下りする事は私にとって適切なルートだったのか? この点をちょっと考えてみよう。
私はニュージーランドのワンガヌイ川を2泊3日でワカホロからピピリキまで86kmを下る予定だった。現地のi-site(観光案内所)で交渉して長めの5日コースと短い3日コースのどちらかを選ぶ事になった。現地を漕いでみて判った事だが、川の両岸が切り立っているので確かに途中にいくつもポートを作れそうにもない。ワカホロの入水ポイントも牧場の脇にある旧坂の泥道を抉って造った場所で、木製やコンクリート製の施設は何もなかった。
この10年ほど国内外で毎年漕いでいるけど、あまり距離を意識した事はなかった。西表島のシー・カヤックで15kmほど漕いだのが最高だ。他は概ね1日ツアーだと8km~10kmだったと思う。
では、どうしてワンガヌイ川の86kmを漕げると判断できたのか。1つにはリバー・カヤックなので波や風に翻弄される可能性が少ない。かつ、川の流れに沿って下って行くので自分の体力を川の流れがサポートしてくれるので、推進力を得られると思っていた。
もう1つは、ニュージーランド人ガイドと同じ艇に乗るので、パワー不足は補完されると考えていた。かつて、スリランカのシギリヤでハスの茎が周囲を覆っていたため、どうにも自分のスキルでは進めない場面があった。その時には日本人女性と現地人ガイドの3名が1つの艇に乗っており、スリランカ人の強靭なパワーで強引に川を進んで湖まで辿り着く事ができた。あのパワーは尊敬に値する。ハスの茎をバシバシなぎ倒して進んで行ったのだ。なので、タンデムであれば単独艇よりもずっとリスクが低い。
そんな2つの理由を以って3日で86kmは大丈夫と考えていたのだ。那珂川のカヤック映像を見ながら、ふと3年前の事を思い出した。
<リエンツァ川でのカヤック体験(2020.7)、スリランカ・シギリヤのリバー・カヤック(2016.9)>
(3)NZカイツナ川カヤックはもっとリスキー
私以外の日本人は無事にカヤックやカヌーで川下りできているのだろうか。私もニュージーランド旅は4回目でこれまでも湖、海でパドリングしている。エイベルタスマン国立公園でもボートハウスやゲストハウスに泊まりながら漕いできた。
先ずは旅行者がワンガヌイ川を実際に旅行しているのか、気になった。ネット検索してみると、旅の記録が3件ほど見つかった。1組は転覆したものの、他のカヤッカーの助けを借りて無事にゴールのピピリキに辿り着いている。他の2組も川下りを楽しんでいる。羨ましい限りだ。
ネット検索していて、ワンガヌイ川よりずっとアドベンチャーな川下りを発見した。それがNZ北島のロトルア付近にあるカイツナ川。なかなかのアドベンチャー動画を見つけた。それを見ると、川下りの途中に3~5mくらいの落差のあるポイントがあった。しかも、滝壺に入った所で2つ目の滝壺が待ち構えている。カヤックを器用に操作して、恐ろしい2つの滝壺を下って行くのだ。これはワンガヌイ川とかリエンツァ川(北イタリア)どころの騒ぎでなくて、私にはとても無理。裸足で逃げ出したいエリアだ。
(4)ショック状態に陥ると腎機能が低下する
肝臓や腎臓は沈黙の臓器と言われているように、機能低下を自覚する事は稀なのだろう。私も、30~40分ほど川に流されて2時間ほど意識を失った事がどこにどんなダメージを及ぼしているのか想像もつかなかった。事故当日に唯一気にしていたのは頭部への損傷くらいだった。
私の場合、他の内科系疾患の治療で3ケ月ごとに採血をしていた。いろいろな検査項目がある。CRP、中性脂肪、コレステロール、γ-GTP、尿酸など毎度代わる代わるどこかに異常値が出てくる。こちらが凹めばあちらが目立つって感じで異常値で賑やかい。ただ、幸いにして腎機能は正常だった。ところがビックリ!
腎機能が露骨に落ちていると言うではないか。「尿が出ているか? 水分は摂れているか?」と立て続けに問われる。特に尿閉とか無かったので「大丈夫」と答える。「毎日2リットル飲んで。安静にしておいた方がいいからあまり動かないように」とアドバイスを受けた。と言っても、毎月どこかに登山しているのでそこはもう遅い。勘弁してもらおう。
肝臓は毒物や薬物の解毒作用があるのでクリアランスって言葉がある。クリアランス能が高いと経口薬を一般容量で服用しても効き目が弱い、ってかつて言われた事がある。肝機能は20代の頃に高かったとしても、中高年になってクリアランス能が低下してくるので同じ薬剤を同量で服用しても効き目が強く出てしまう。実際にそれで困った経験があるのだ。
同様に、腎臓は不要なものだけを尿として濾過するのでその機能を見るためにクリアランスって言葉を使う。こちらはクリアランスが落ちると老廃物を体外に排出できなくなってむくんだりする。幸いそんな症状はなかった。腎クリアランスはeGFR(糸球体濾過量)で確認できるけど、これまでずっと60~80で安定しており気に留めた事もなかった。それが、なんと37にダウンしていた。クレアチニンも1.58と初めて異常値になってしまった。焦る。
ドクター曰く、「カヌー転覆の影響かも知れないし、であれば治まっていく過程だろう。そのせいで頭がふらつくなど症状が出ているかも知れない。1ケ月後に再検査しましょう」。頭がボンヤリしているように感じた原因が判ったので少し安心した。ネット検索しても明快な記述を見つけられなかったが、どうやら一次的にショック状態に陥る事で腎臓への血液流入が低下して異常が起きるらしい。あるサイトによると血流が50%ダウンすると腎臓への血液供給が75%もダウンするとか。
カヌー転覆から既に2年半ほど経過した。でも、eGFRの値が元通りには戻らないのだ。何度か血液検査を受けた後で、医師から「すぐに戻る、ゆっくり戻っていく、戻らない、そのいずれかだ」と言われた。私の場合はまだまだ緩慢に戻っているプロセスなのだと信じたい。カヌー転覆のショック以降にストンと落ちて、水を多めに飲む事は意識してきたけど、なかなか値が上がらない。最悪期こそ脱したものの一進一退を続けている。CCr(クレアチニン・クリアランス)のグラフも同様の傾向でずっと推移している。尚、空白部分は検査結果が見つからないため、非表示となっている。
<2019.12前後で一変したeGFR>
<クレアチニン数値にも変化あり>
頭がボンヤリしているのは程なくして治ったのでその後は自覚症状もない。けど、これだけ露骨に腎機能の検査数値に表れているのはちょっと重たいな。まあ気長に数値が戻っていくのを待つしかない。自分の場合には定期的に通院していたのでたまたま血液検査でそんな変化を知る事ができたけど、こうしてHPで共有する事でショック状態に陥った誰かの参考になればと思ったもの。
【参考】eGFR:腎臓にどれくらい老廃物を尿へ排泄する能力があるかを示しており、この値が低いほど腎臓の働きが悪いということになります。eGFRは血清クレアチニン値と年齢と性別から計算できます。 ※出典:協和発酵キリンHP
https://www.kyowakirin.co.jp/ckd/check/check.html
【参考】クレアチニン: 筋肉に含まれているタンパク質の老廃物。本来は、尿素窒素と同様に腎臓の糸球体でろ過され尿中に排泄されますが、腎臓の機能が低下すると尿中に排泄される量が減少し、血液中にクレアチニンが溜まります。腎臓の機能の低下とともに、血清クレアチニンの値は高くなってきます。血清クレアチニンの正常値は、男性1.2mg/dl以下、女性1.0mg/dl以下です。 ※出典:全国腎臓病協議会
https://www.zjk.or.jp/kidney-disease/inspection-method/
(5)海外旅行で事故に巻き込まれたら保険請求できるか
これも参考になると思うので、簡単に書いておきたい。このカヌー転覆事故の後で、旅行中は体の異常はなかったものの、帰国後に5つの症状(詳細は既報の通り)に悩まされたと書いた。具体的には以下の通り。
・帰国翌日に熱発
・アキレス腱など足首の痛み
・仮歯がズレた
・頭がボーッとしたため、CT検査
・ぎっくり腰
ニュージーランド滞在中は違和感があったもののボンヤリしたものだったので、特に病院に通っていない。上記5点はいずれも帰国後に治療費、やCT検査費が発生したもの。成田空港で加入するような5千~1万円程度の海外旅行保険に加入していたので、諸々落ち着いた3ケ月くらい経過したところで保険会社に問合せしてみた。確か、帰国後72時間以内に症状があった(若しくは通院した)場合には保険請求の対象となると伺った。また、損害保険請求期限は確か事故発生から6ケ月以内との事。
結果としてはいずれも保険金の支払いは可能との事。領収書を送付すれば実費相当額を負担してもらえるとの回答で、実際に保険請求から程なくして実費相当額が銀行振り込みされた。但し、歯科治療に関しては医師の診断書が必要との事だった。診断書の発行費用の方が治療費よりも嵩むため、歯科治療費は申請そのものを取り下げる事にした。
※条件に関しては若干曖昧であり、保険会社によっても差異があるだろうし個別に確認をお願いしたい。
(6)海外ツアーでの保険加入
かつて中国で九塞溝と黄龍の3泊4日中国人向けツアーに参加した時に、長々とした契約書と保険付保について長々と書かれた文章を目にした事がある。しかも中国語なのでところどころ漢字を読めても雰囲気が伝わるに過ぎない。ただ、ワンガヌイ川でのカヌー旅行に限らず殆どの場合において、こうした文章やサインを交わす事は稀だと思う。ニュージーランドの旅を終えて帰国した後、念の為メールで「保険に入っていたのか」英語で問い合わせても回答を得られなかったので何ら情報はない。まあ、仮に何らかの保険に入っていても、英語で請求手続きを進める途中で断念していただろう。
ただ、「事故が発生しても業者側から積極的に通知はないので自分から確認する必要がある」点に注意したい。これは、私がかつて国内の悪質業者のツアーで怪我した際に弁護士からアドバイスを受けた言葉だ。参加者サイドには保険加入の有無すらハッキリ知らされていない事もあり、仮に知っていても保険請求そのものに気が付かないだろう。なので、何らかのトラブルに巻き込まれた時に取るべき行動の1つとして頭に入れておくと良い。
(7)知床・ウトロの観光船沈没事故
旅行記の改定版を書いていたのがちょうど2022年4月の知床・ウトロの観光船沈没の時期と重なったので、どうにもモヤモヤした気持ちが残った。冷たい川に流された経験者として、もうちょっと深堀りできないものか考えてみた。ここではAmebaブログに書いた記事「ウトロの観光船(最近の水難事故に絡んで②)」をベースに書いていく。
●もし転落したら(基本編)
カヌーやカヤックでは稀にチン(沈没)する可能性があるし、私も過去に四国の仁淀川で経験がある。海の方が波にさらわれてバランスを崩しそうなものだけど、私がチンしたのは仁淀川もワンガヌイ川もともに川だった。仁淀川ではスプレースカートを付けたクローズドタイプのカヤックだったので、沈没すると即カヌーが反転する。そこでスプレースカートのタグを引っ張れば、カヌーから脱出する事ができる。
さて、観光船で海や川に転落したらどう対処すると良いのか。観光業者の責務はその通りだけど、観光客も個々人で考えておく事はある。一般的に言われているのは2点だ。
・海: 仰向けに浮かんで、なるべく無駄に体力を使わない
・川: 障害物にぶつかる可能性があるので、前向きに流されていく
●転落後に身を守るために(リアル編)
もちろん、カヌー転覆経験者として基本編だけでは足らない。リアルな体験から4つほど挙げてみた。以下に斜体で引用した部分はワンガヌイ川における旅行記の本文。
【a】まずライフジャケットの紐をキツク締め直そう!
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首まで川に浸かった状態でまずやったのはライフジャケットの紐をキツく締め上げる事。片手でカヌーにしがみついて立ち泳ぎしていると、ライフジャケットが浮かんでしまい思いっきり首を締め上げてきたのだ。そもそもカヤックならともかくカヌーで沈没する想定はしていなかったので紐が緩かったのだ。それと、日本でカヤックツアーに参加するとライフジャケットをキツく締め上げて安全確認するタスクまでひっくるめてツアー代金に含まれているけど、海外の感覚は違う。ライフジャケットを手渡すまでが仕事であって、それを安全に装着するのは各人の自己責任だ。
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今回のウトロの水難事故ではライフジャケット(救命胴衣)が装備されていた。また、四方に紐が付いているモノが想像より大きくて、四方に3名ずつ計12名が掴まっていられる救命浮器も用意されていた。掴まれるだけ安心感はあるけど、これだとずっと心臓が海に浸かったままなので救助を待っているうちに冷え切ってしまうだろう。
【b】靴がもげないようにしっかり履いておこう!
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次に、履いていたクロックスがもげそうで危ない事に気づく。下手に素足になった状態で川を流されていくと、岩とか川底の尖った所で怪我をするかも知れない。なので、外れないよう慎重に留め具を踵の方に回す。
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カヌーやカヤックの場合にはそもそも足元が濡れる想定なのでクロックスかビーチ・サンダル履きで乗り込む。観光船の場合、くつなら良いけどすぐに外れそうな履物は不味いって事。
【c】溺れないように!
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流されていくと瀬なのか、川面が荒れている場所に何度か差し掛かった。その度に溺れる。いくらカヌーを片手で掴んでいても、何度かそんな場面で手を放してしまう。テイラーもどこに居るのか、どこを流されているのか判らない。とにかく必死で水面に顔を出そうとしていた。いざ顔を出したら反転したカヌーの中だった。真っ暗なカヌーの中は余計に不安にさせる。今度は敢えて潜ってカヌーの外に出る。
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泳げなくてもいい。と言うか、川の流れは緩やかに見えても、いざ入水すると思うように動けない。かつてギアナ高地に行ってウーロン茶色した綺麗なオリノコ川で川遊びした時に、ガイドさんが上流に向いて必死にクロールして僅か1mくらいしか進まなくて笑えた。でも、自分でトライしてみるともっと酷い。必死に腕を回しても後退していたのだ。そんな状況なので、先ずは溺れないように態勢を維持できる事が不可欠なのだ。
ワンガヌイ川ではどうにかカヌーのへりを左手で掴んでいられたので、何度か溺れかけたものの立ち泳ぎの態勢をそこそこ安定させていられたのが良かったと思う。ウトロの事故ではどうだったのだろうか。浮き輪は船に人数分を設置している訳でないから、何でもいいから見つけたものにしがみついておくしかない。残念ながらここは運もある。
【d】生きのびる意思を捨てない!
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どれくらい経過したのだろう。体が冷えてきた。元気だった自分の心臓もその内にイカレてしまうんじゃないか。そんな恐怖を感じた。とにかく気力だ! 天を仰ぎながらそう自分を勇気付けるしかなかった。
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川 に流されていた時、ライフジャケットを着ていた。でもそれだけではとても耐えられなかった。衝突防止のためのヘルメット、寒さに耐えるためのスキューバスーツ、溺れないように浮き輪、どれも欲しかった。でもラフティングしている訳じゃないんだから、逆に全てを装着していたら現実的に水の旅を楽しむのはムリ。生への執着は人それぞれだと思う。ここを「気合で乗り切れ!」と言い放つには無理があるけど、それ以外の言葉を思いつかない。
<のどかな川下り風景(たしか美ヶ原で購入したTシャツ)>
【2022.9.16追記】2章「86kmの川下りは適切なルートだったのか」を追記しました。
【2023.7.12追記】CCr(クレアチニン・クリアランス)のグラフに表示不良があったため、クレアチニンのグラフに差し替えました。