2025年は尾瀬でクマに遭遇

最近はクマに出会う。2022年の双六岳(花見平)、2024年の鹿島槍(柏原新道)ときたので、隔年サイクルだとすれば今年は安心、大丈夫だと信じていた。しかも、北アルプスを避けて、観光客が普通に歩いている尾瀬にやってきた。なのに甘かった。

<2020.3_打当温泉・マタギの湯の露天風呂にて> ※再掲
<2025.3_なべくら高原・森の家で買ったクマTシャツ>

(1)山の鼻でクマを目撃

出会ったのはつい先日のこと。2025年6月30日、14時50分くらいだった。尾瀬ヶ原の散策から戻ってきて、あと1分も歩けば山の鼻エリアに入るところなのだ。ここには尾瀬ロッジ、山の鼻小屋、至仏山荘と山小屋が3軒も並んでいる。登山者が必ず通るエリアなのだ。木道の手前に3人ほど突っ立っていて、先がつかえていた。どうしたんだろう?

「どうしたんですか?」
「ほら、あそこに熊がいる。どうしましょう……」
「へっ?」
言葉が出なかった。山の鼻まであと1分あるかないか、そんな場所に熊さんが出没するのか、勘弁してくれ……。
目視できなかったものの、先ずは1枚撮る。

<すぐ後ろには人工物がいくつも立つエリア>

私の視力ではどこに黒いモノがいるのかトンと分からず。微かに右下に黒いモノが映っていた。
場所が分かったのでもう1枚撮る。すぐ傍にあるのはコバイケイソウの花だ。
この写真をズームしてみる。おぉ立派な後ろ姿だ。

<確かに黒い、ズームしてクマと確定!>

4人が立ち尽くしていると後ろから来た5人目は熊に慣れている方なのか「ここで待っていたら鳩待峠のバスに乗れなくなる」と言って淡々と歩き始めた。その方は舌の腹を口蓋に押し付ける感じでカンカンと音を立てて熊に人の存在を知らせるようにしながら、普通の速さで小屋の方に歩いていく。熊も音に気付いてこっちを振り向く。このショットは写真に納められなかった。実はこの時点で初めて熊がどこに座り込んでいたのか分かった。距離にして5~10mくらい。
一瞬躊躇っている顔つきに見えたけど、そのまま藪に入っていってくれた。以前、双六岳で遭遇した時には藪に入ってからしばらく様子を見ていた。けど、ここはもう小屋が並んでいる場所まで1分の距離。私も含めてみんなそのまま、彼の後に付いて木道を進んでいく。

山の鼻の小屋の方に熊のことを話しても、「ああそうですか」と軽い。それは、双六小屋や柏原新道でも同じ反応だったのでもうこっちとしても驚かない。けど、山小屋のすぐ傍まで出没するのって、心配ないんだろうか。
小屋の前で生ビールを呑んでいた登山者と立ち話したが、「この辺は熊の棲息圏だから……」、「そこの研究見本園で熊がよく出てくるらしいヨ」と至って落ち着いている。鳩待峠の売店でも「コロナ禍で登山者が尾瀬に来なくなってから山の鼻の辺りに熊の一家が安心して住み始めた」とか。

<鳩待峠と山の鼻の登山道にて>

でもこうして小屋の傍で遭遇してみると、実はそこら辺の藪に普通に暮らしているのかも知れない。こちらが彼らの気配を感じることはなくても、彼らは熊鈴の音をしっかりと聞いていて藪の中から人間の様子を観察しているのかも知れない。確かに尾瀬を散策していると以前より熊用の鐘を設置している箇所が増えたと思う。中国語や韓国語の案内まで書いてあった。かつては東電小屋の付近だけだったと思うんだけど。

うーん……。これから夏山シーズンだと言うのに不安な幕開けだ。今年こそは折立から太郎小屋方面、雲の平に入っていきたいんだけどなぁ。

(2)尾瀬保護財団HPを参照してみた

尾瀬保護財団のHPを参照すると、ここに目撃情報が一覧化されていた。2025年は7/1現在で25件あり殆どが山の鼻エリア。私が目撃した6/30についても、12:30の目撃情報が載せられていた。と言う事は2時間以上前からこの界隈を彷徨っていたってことになる。しかも「親子グマ(子グマ2頭)」と書かれているので計3頭だ。私がこの2時間後に目撃したのはおそらく子熊だ。

<下表から部分的に抜粋>

https://oze-fnd.or.jp/wp4/wp-content/uploads/2025/07/d78b628fe4da1693b8d1e497152bdf21.pdf

このHPに年度別の目撃件数もグラフ化されていた。2020年の目撃件数が最高なのはコロナ自粛で彼等の行動範囲が広がったことが考えられる。けど、2015~2024年のグラフを見ると毎年70~190件は目撃されており、私の主観(コロナ禍で熊の棲息域が広がった)は間違っていた。
私が尾瀬を歩くのは今回で10回目。その半数以上は鳩待峠・山の鼻経由であり、昨年も帰路でここを通っている。高山植物や至仏・燧ヶ岳など景色に気をとられていてボンヤリしているので、察知していなかっただけなんだろう。

<以下サイトから引用>

https://oze-fnd.or.jp/ozd/br/

(3)北海道福島町のヒグマ被害

先日の北海道福島町のヒグマ被害は戦慄すべき事態。住民の方々にとっても登山者にとっても他人事ではない恐怖だ。
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男性は「きょう午前2時半ごろ、家の外から何か叫び声のような声が聞こえたので玄関のドアを開けたところ、クマが人に覆いかぶさっている状態だった。声を出して追い払おうとしたがクマは逃げず、警察に通報しているうちに男性を引きずって連れて行ってしまった」と話していました。
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※出典
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250712/k10014861241000.html

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北海道で12日、クマに襲われ死亡した新聞配達員の男性は、約100メートルにわたってクマに引きずられたとみられることが新たにわかった。
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※出典
https://www.fnn.jp/articles/-/901360

このニュースを聞いてから、気になる事があって2019年の道東旅の弊ブログを探してみた。ただ、いくら探しても肝心なことはそこに書かれてなかった。探していたのは以下のような発言。

「登山していて行方不明になる人はいる。そういうのは大抵ヒグマに襲われて藪に引きずり込まれて発見できないケースだ」

この言葉は、2019年6月の旅で阿寒湖・弟子屈エリアの登山者から聞いたものだ。ビックリしたので鮮明に覚えている。私はその直前に雌阿寒岳に登っており、下りで熊鈴を失くしてしまい怖い思いをしながら下山したばかり。なので猶更のこと焦ったのを覚えている。
自分ではブログに起こしたつもりだったのに、何故あの当時のブログに残っていなかったのだろうか。想像するに、あまりに衝撃的な言葉をブログに残すのが憚られたのだろう。そんなことが実際にあって欲しくない、登山者の戒めとして伝えられたものの現実にはあり得ないんじゃないか、そう勝手に否定したい気持ちがあったのだと思う。
むしろ、北海道で聞いた別の言葉、「逆だよ。本州のクマの方が性格が悪い」に賭けたかったのだ。まあ、これは北アルプスの小屋でも「この辺の熊はみんな大人しいから大丈夫」と言ってくれるので、なるべくそうであってほしいと信じるようにしている。でも、バイアスはあくまで主観的なもの。今回の報道でまざまざと思い知らされることになった。

【参考】 前半は2015年知床において2日連続で遭遇した時のこと、後半は2019年の会話。この引用部は以下リンク記事のAppendix Aから再掲している。

【参考】過去のクマ遭遇ブログ

【2025.7.6追記】 尾瀬保護財団のHPを参照して、2章を加筆しました。
【2025.7.19追記】 北海道福島町のニュースを受けて、3章を加筆しました。

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