春の鳳来寺山
(1)ユニークな門前が広がる
時期: 2021年4月.下旬
人出:50人以上
行程: 豊鉄バス・鳳来寺バス停(11:20)→鳳来寺本堂(12:25)→山頂(13:15)→東照宮(14:40)→問谷小学校跡と写真caféで休憩(55分)→鳳来寺バス停(16:50)
この日も三遠南信の低山旅をしてみる。このエリアを歩くようになったのは緊急事態宣言下の2020年4月だったけど、まさか1年経過してまだ続けているとは思いもしなかった。ただ、探せば低山はいくらでもあるもので、この日はJR飯田線の本長篠駅からバスに乗った。本長篠駅は昨年5月に阿寺の七滝を訪れてから1年振りだった。相変わらず閑散とした駅だった。
鳳来寺バス停で下りて、参道を歩き始める。雰囲気のある昔ながらの建物が続いていく。門前町としてはよくある古い街並みだけど特徴がある。
・左手に鳳来寺高校と門谷小学校の校門がある事。いずれも廃校になっているけど、敷地はそのまま残っている。(別稿で触れるのでここでは省略)
・十二支の石像がねずみから順に並んでいる
・uniqueな彫像が3つも建てられている。牧水の像はシュールだ。徳川家康と松尾芭蕉の像もある。
・「○○硯製造舗」など硯屋さんの看板が何軒かで架かっていた。かつて、この付近のヤマで硯に適した石が採れていたのだろうか。
<鳳来寺参道、若山牧水>
(2)ここは三遠南信の旧街道の要衝だった
鳳来寺の周辺に広がる街道の案内板を見つけた。これを見る事で、主要な東海道や姫街道だけでなく三遠南信の山奥に続く鳳来寺道、伊那街道、秋葉道などの関係性を初めて知った。三遠は容易に往来できるけど、21世紀にあっても南信は険しそう。
2020年春先の旅として、阿寺の七滝と龍山村・西川のブログを投稿した。阿寺の七滝では六本松バス停から巣山集落を経由して滝に向かった。ここと龍山村にどんなつながりがあるのか、1年前には全く知らなかった。実はここ、かつては巣山(阿寺の七滝)と龍山村・西川を結ぶヤマのルートだったのだと知る。そこで巣山から秋葉山(西川)を結ぶルートを見つけた。
<鳳来寺山の門前にて(2)>
で、ネット検索していると「秋葉山参詣道法図」なる地図も見つかった。
※参考:「遠州の街道を歩こう」サイト
Googleで「秋葉山参詣道法図」を検索してみると、どうやら原本は名古屋に保存されているようだがいつの時代に描かれたものかハッキリしなかった。
ただ、阿寺の七滝がある巣山が地図の西端にあって、そこから順に川宇連(かおれ)、神沢、熊村、石打、西川、戸倉と続いて秋破山に至っている。どちらも往時の立派な参詣道に位置していた訳だ。それと、この地図には書かれていないものの、巣山の西に飯田線・三河大野駅や本長篠駅があり鳳来寺山はもうすぐそこだ。
昨年よりあれこれと三遠南信の山間部を手あたり次第に歩いているものの、現在こうした横断ルートを辿って行くのはなかなか難しい。昨年も東海自然歩道を通って西川から熊村まで歩こうと思ったのだが蛇と草むらで撤収してきた。どうしても南の平野部からピストンで往復する事になってしまう。ただ、当時はしっかりとルートも宿場も整備されていたのであろう。今ほどには平野部と郡部でインフラの充実度に差はなかったであろうし、山間部の往来も現在より頻繁にあったのだろう。交通手段が鉄道と自動車に置き換わった現代と昔の姿を見比べて想像してみるのも面白いものだ。
※参考:まほろばサイト
http://mahoroba3.cocolog-nifty.com/blog/2016/04/post-aeae.html
鳳来寺との位置関係はこちらの簡潔な地図の方が判りやすい。姫街道(本坂通:御油宿~見附宿)が東海道よりもずっと田舎だと思っていたけど、鳳来寺と秋葉山を結ぶルートはずっと山深い北側に位置している事に驚く。
ついでに言うと、ここは正に東海自然歩道として残されているルートそのものだった。以下の地図は静岡県と愛知県の県境ルートを示したものになる。
※東海自然歩道サイト:東海自然歩道・西川から寧比曽岳まで
http://www.tokai-walk.jp/course_guide/course8-1.html
(3)1400段の石段が続く
さて、いよいよ長い階段が続く山道に入って行く。4月下旬と言うのに、もうシャクナゲが咲いていた。むしろ散り際に近くなっていた。シャガは確かに4月の花だけどシャクナゲの季節としては些か早いな。
この階段は一体いくつ続いていたのか。途中で250段って表示を見つけたけど、その先はもう気力で登って行くのみ。パンフレットによると約1400段も登ったことになる。この鳳来寺が面白いのは、この石段の左右にずっと寺の跡が続いていた事だ。いつごろ廃寺になったのか不明だが、往時には参道の斜面に小さな建物がいくつも建っていたようだ。
ここの階段はなかなか歩きやすい。勾配はそこそこ厳しいものの、石段の高さを緩く調整されているためなのか。それと、所々にある踊り場にも無駄な上下動をしないで素直に足を運べるように、スーッと平らな敷石が施されているためだろう。
ようやく本堂に着いた。
<長い参道が続く(2)>
(4)時計回りに山頂へ、そして東照宮
本堂に着いた所で一息入れる。抜きつ抜かれつ登って来た人もみんな笑顔だ。麦わら帽子の年配の男性と喋る。かつてこの近くに住んでいた方らしく、頻繁にここまで登ってきているそうだ。その方は反時計回りに山頂まで登ると言う。私は急な下りが苦手なので、早めに急勾配を登ってしまいたくて時計回りに動く事にした。
このルートは山道に水が溢れている箇所が多かった。ほとばしるように岩清水が流れ落ちていた。もう山頂直下だったのに、この高さでこんな大そうな保水力があるんだろうか。石を穿って階段を造っている箇所もいくつかあった。なので、ここを下るのは避けたいし時計回りで正解だった。
展望台に立つと、山並みが延々と続いているのが判る。その谷間に小さな集落が見える。もしかしてあそこが鳳来寺の門前町なのか。
この花は何だろう。チリチリした花の恰好はヒトリシズカみたいだけど、ヒトの背丈くらいある木だった。
山頂は見晴らしが利かない。ベンチで女子高生と思しき3人組がランチ休憩していた。
早々に下って行くが、天狗岩方面にはどうにも滑りやすそうな一枚岩が続いていた。天狗岩で麦わら帽子の爺さんと再会する。どうやら天狗岩がこの周回ルートの中間地点のようだ。
はて、ここに東照宮があるとは知らなかった。鳳来寺ってどう見てもヤマの中である。三大東照宮って言葉も初めて知った。日光と久能山とここ鳳来寺山だと言う。この東照宮も三大将軍家光の命によって建造されたものだと言う。家康が産まれた時に母・於大の方が強い武将になるように、とこの地で祈願していた由縁のある場所だったとか。東照宮の社務所ではお札やお守りの他に「寅童子」と称するとんがり帽子の人形を売っていた。福島の起き上がりこぼしのようなデザインで、それよりもう少し頭の部分が尖っている。
<山頂手前の展望台にて 、山頂>
(5)時間が止まったような門谷小学校
ヤマを降りてきて、バスの時間を調べてみると、どうやら1時間以上も待ちそうだ。そこでちょっと寄り道した。門前町に校門(廃校)があって、「まだ元気です」的な看板が目を引いたので入ってみる。ここがなかなか良かった!
小川を渡って敷地に足を踏み入れてみる。おおー! 昔ながらの小学校じゃないか。ヤマを背にして平屋建ての木造校舎が細長く伸びており、中央に玄関があった。そこから直角に渡り廊下があって、水飲み場とか往時に子供達で賑わっていただろう事が偲ばれる。とても雰囲気のある景色だった。ドラマの撮影でそのまま使えそうな雰囲気がある。自分が小学校低学年の頃には、まだどうにか木造の図書館とか渡り廊下を使っていた記憶があるので、ホントに懐かしい。 実際に
この門谷小学校はNHK朝ドラ「エール」のロケ地になったとか。
登山靴を履いていたので、校舎内を見学するのは憚られたけど、玄関を覗いてみると木造の床、木造の下駄箱が往時のままの姿で残っていた。
左手に、手書きの往時の地図が貼られていたのでそれを見てみる。鳳来寺駅って何? そもそも今バスでここまで来たんだけどな。令和の時代に鉄道なんて通っていないよ。うん、豊鉄田口線ってなんなの? ようやく事情が呑み込めた。これは戦前戦後くらいのモノじゃないか。この小学校も昭和45年に廃校になったと書かれていた。
校庭ではテントでいくつかの店がマーケットを開いており、10名くらいの人が談笑していた。そこで、フランスパンとクッキーを買う。はて、バスの時間までまだまだあるぞ。
<校門、校庭>
(6)鳳来寺高校もロケ地に相応しい
門谷小学校の隣りには鳳来寺高校の正門があった。こちらも雰囲気が良い。両側から木の緑が覆いかぶさって来る。高校生が、毎日のように緑のトンネルを抜けて校舎に入っていくのは気分が良かっただろう。自分の母校は無機的な校舎だったので、猶更そんな事を感じた。
ここも2011年に閉校になっているが、とにかく味のある校門だ。調べてみると、隣りの門谷小学校と同様にやっぱりドラマのロケ地になっていた。2013年にテレビ東京「みんな!エスパーだよ!」がここで撮影したとか。
赤い花なのか実なのか、ヘリコプターみたいな形をした小さなモノがモミジの若葉にたくさん付いていた。調べてみると実だった。この風景はつい先日の宮路山と同じだな。
驚いたのは、その近くに赤じゃなくて白い色をした実を付けたモミジがあった事。こちらは初物だ。モミジの種類が違うのか、それとも白いのが徐々に赤く染まっていくものなのか。
バスの時間までまだまだある。門前に面した椅子に腰かけて、玄米団子を1串食べてみる。美味しい。玄米と言うほどには硬くない。気さくなご主人としばし会話した。途中で麦わら帽子の年配登山者も通りがかって話に加わる。写真cafe月光の店内には大判の写真が何枚も飾られていた。若々しいプロの写真家さんだけに、なかなか味のある写真を拝見する事ができた。インドを3~4回ほど旅されている方でそんな話もしてみたかった。
日帰り旅で長い文章を書く事ができるなんて中々ないな。おそらく初めてじゃないか。いろいろな写真も撮れたし、それだけ内容が濃かった奥三河・鳳来寺山の旅だった。
<鳳来寺高校の校門、もみじの赤い実>